新規個別指導とは——高点数と無関係に来る指導の時期・中身・返還範囲
新規個別指導は「指導大綱」ではなく実施要領に定めがある
指導・監査の話をするとき、多くの記事が根拠として挙げるのは「指導大綱」です。ところが、指導大綱には「新規個別指導」という言葉が一度も出てきません。指導大綱が定める指導形態は集団指導・集団的個別指導・個別指導の3つで、個別指導はさらに都道府県個別指導・共同指導・特定共同指導に分かれます[2]。新規個別指導はこの分類のどこにも独立した項目として現れません。
新規個別指導の実施方法を具体的に定めているのは、厚生労働省保険局医療課医療指導監査室が地方厚生(支)局向けに作成した**「医療指導監査業務等実施要領<指導編>」**です。この要領は「5-(11) 各種指導に係る業務(新規個別指導)」という独立した項目を置き、対象・時期・方法・経済上の措置までを定めています[1]。
厚生労働省の統計資料は、新規個別指導を「個別指導のうち、新たに指定された保険医療機関等を対象として行われるもの」と説明しています[4]。つまり法的な位置づけは個別指導の一形態で、運用ルールだけが別に決められている、という構造です。
歯科では年間どれくらい実施されているか
件数は厚生労働省が毎年公表しています。令和6年度に歯科が受けた新規個別指導は、保険医療機関等で1,292件、保険医等で1,576人でした[4]。
新規個別指導の実施件数(保険医療機関等)
厚生労働省「令和6年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況」年度別推移より
| 年度 | 歯科 | 医科 | 薬局 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 令和2年度 | 781件 | 982件 | 1,152件 | 2,915件 |
| 令和3年度 | 1,084件 | 1,524件 | 1,845件 | 4,453件 |
| 令和4年度 | 1,663件 | 2,490件 | 2,589件 | 6,742件 |
| 令和5年度 | 1,517件 | 2,709件 | 2,350件 | 6,576件 |
| 令和6年度 | 1,292件 | 2,599件 | 2,098件 | 5,989件 |
歯科は前年度の1,517件から1,292件へ減っています[4]。参考までに、同じ令和6年度の歯科は、個別指導が791件、集団的個別指導が5,029件、監査が14件でした[4]。新規個別指導は個別指導の1.6倍の件数で、新規指定を受けた歯科医院にとっては、面接懇談方式の指導のなかで最初に経験する可能性が高いものです(件数そのものは集団的個別指導が最多です)[4]。
いつ来るのか——新規指定から概ね6か月経過後、1年以内
実施要領は、新規個別指導の対象と時期を次のように定めています[1]。
新規個別指導の対象と実施時期
医療指導監査業務等実施要領<指導編> 5-(11) 2 業務内容(1)(2)(平成30年9月版)
| 項目 | 定め |
|---|---|
| 対象 | 新規指定から概ね6か月を経過した保険医療機関等に実施する |
| 選定 | 指導対象となる保険医療機関等については、選定委員会に諮り決定を行う必要はない |
| 時期(原則) | 原則として、毎年度4月から実施する |
| 時期(範囲) | 新規指定から概ね6か月経過後、1年以内に実施する |
| 集団指導との順序 | 指定時集団指導も実施する場合は、当該指導を実施後、新規個別指導を実施する |
ここで実務上いちばん効くのは、選定委員会にかける必要がないという部分です[1]。通常の個別指導は、指導大綱等に基づいて選定し、選定委員会に諮って決定する手順を踏みます[1]。選定の入口となるレセプト1件当たり平均点数の基準は、個別指導の選定基準の記事で詳しく扱っています。新規個別指導にはこの過程がありません。
つまり、算定が適正かどうか、点数が高いかどうかとは無関係に、新規指定を受けた時点で予定に入るということです。分院の開設や訪問部門の立ち上げで新たに指定を受けるなら、開設の準備段階から想定しておく性質の指導です。
集団指導(指定時集団指導)との関係
新規指定の医療機関には、もう一つ別の指導も予定されています。指導大綱は集団指導の選定基準として「新規指定の保険医療機関等については、概ね1年以内にすべてを対象として実施する」と定めています[2]。実施要領はこれを「指定時集団指導」と呼んでいます[1]。
新規指定のあとに予定される2つの指導
指導大綱 第4の2(1)/医療指導監査業務等実施要領 5-(4)・5-(11)
| 指定時集団指導 | 新規個別指導 | |
|---|---|---|
| 対象 | 新規指定の保険医療機関等の全て | 新規指定から概ね6か月を経過した保険医療機関等 |
| 時期 | 新規指定から概ね1年以内 | 新規指定から概ね6か月経過後、1年以内 |
| 方式 | 一定の場所に集めて講習等の方式 | 個別に面接懇談方式 |
| レセプトの点検 | —(講習等の方式による) | あり(連続した2か月分) |
実施要領は、指定時集団指導について「新規個別指導を実施する場合又は実施した場合は除外しても差し支えない」としています[1]。集団指導の案内が来なかったからといって新規個別指導も来ない、ということにはなりません。
当日の中身——連続2か月分のレセプト・10人分程度・原則1時間
実施要領が定める指導方法は次のとおりです[1]。
新規個別指導の指導方法等
医療指導監査業務等実施要領<指導編> 5-(11) 2 業務内容(6)(7)(平成30年9月版)
| 項目 | 定め |
|---|---|
| 対象レセプト | 原則として、指導月以前の連続した2か月分 |
| 件数(診療所) | 10人分程度(病院は20人分程度) |
| 方式 | 関係書類等を閲覧し、面接懇談方式により行う |
| 指導時間(診療所) | 原則として1時間(病院は2時間) |
| 出席者 | 開設者(又はこれに代わる者)及び管理者。必要に応じて保険医等、診療報酬請求事務担当者、看護職員、その他の従事者等 |
指導時間について、実施要領は「指導の目的が果たせる時間とし、原則として診療所及び薬局は1時間」とし、あわせて「指導時間とは、届出事項及びレセプト等に基づく関係書類等の確認に要する時間を意味し、取りまとめ及び指導結果の口頭説明に要する時間は含まない」と注記しています[1]。1時間で終わって解散、という意味ではありません。
出席者は、原則として開設者(又はこれに代わる者)と管理者です[1]。出席できない場合は理由書とそれを証明できるもの(診断書等)の提出を求められ、正当な理由と判断されれば指導は延期され、原則として当該年度中に実施されます[1]。
通常の個別指導とどこが違うか
同じ実施要領のなかで、通常の個別指導(5-(8))と新規個別指導(5-(11))は項目ごとに書き分けられています。並べると差がはっきりします[1]。
個別指導と新規個別指導の対比(診療所の場合)
医療指導監査業務等実施要領<指導編> 5-(8)・5-(11)(平成30年9月版)
| 項目 | 個別指導 | 新規個別指導 |
|---|---|---|
| 対象の決め方 | 指導大綱等に基づき選定し、選定委員会に諮り決定 | 選定委員会に諮り決定を行う必要はない |
| 対象レセプト | 指導月以前の連続した2か月分 | 同左 |
| 件数 | 30人分 | 10人分程度 |
| 指導時間 | 原則2時間 | 原則1時間 |
| 学識経験者の立会 | 原則として立会依頼を行う | 個別指導の項を参照(同様の扱い) |
| 返還の範囲 | 返還が生じるもの+返還事項に係る全患者の指導月前1年分 | 指導対象となったレセプトのうち適正を欠くもののみ |
| 正当な理由なく拒否した場合 | 監査を行う | 個別指導を行う |
いちばん重要な違いは「返還の範囲」
ここが経営インパクトを左右する部分です。実施要領の「経済上の措置」は、通常の個別指導と新規個別指導とで明確に書き分けられています[1]。
経済上の措置(返還の対象範囲)
医療指導監査業務等実施要領<指導編> 5-(8) 2(10)・5-(11) 2(10)(平成30年9月版)/監査要綱 第6の4(3)
| きっかけ | 返還・自主点検の対象 | 根拠 |
|---|---|---|
| 個別指導 | 指導対象となったレセプトのうち返還が生じるもの及び返還事項に係る全患者の指導月前1年分のレセプトについて、自主点検を行わせる | 実施要領 5-(8) |
| 新規個別指導 | 指導対象となったレセプトのうち、適正を欠くものについてのみ返還対象とする | 実施要領 5-(11) |
| 監査 | 原則として5年間 | 監査要綱 第6の4(3) |
監査後の返還期間について、監査要綱は「監査の結果、診療内容又は診療報酬の請求に関し不正又は不当の事実が認められた場合における当該事項に係る返還期間は、原則として5年間とする」と定めています[3]。
条文だけを読めば、新規個別指導では指導対象となったレセプトのうち、適正を欠くと指摘されたものが返還の対象であり、通常の個別指導のような「返還事項に係る全患者について1年分をさかのぼって自主点検する」という文言は置かれていません[1]。
なお、自主点検の結果、被保険者の一部負担金に過払いが生じた場合は、適切かつ速やかに被保険者へ返還するよう指導されます[1]。返還は保険者に対するものだけで終わらない点に注意してください。
通知から当日まで——何が届き、何を準備するか
実施要領は、事前準備の流れを次のように定めています[1]。
新規個別指導の事前手続き
医療指導監査業務等実施要領<指導編> 5-(13) 3 事前準備(平成30年9月版)
| 時期 | 起きること |
|---|---|
| 指導日の1か月前を目途 | 実施通知が送付される(根拠規定・目的、日時・場所、出席者、準備すべき書類等、共同で行う旨を記載) |
| 同時 | 「保険医療機関(歯科)の現況」が送付され、指導日前に提出させる |
| 指導日の1週間前 | 指導対象患者名がファックス又は電子メールで送付される |
| 指導当日 | 事前に抽出されたレセプト(原則として指導月前の連続した2か月分)に基づき、診療録及び関係書類を閲覧して面接懇談方式で実施 |
準備の中身については、厚生労働省が**保険診療確認事項リスト(歯科)**を公開しています。実施要領も、指導に当たっては「確認事項リストを活用するなど確認事項の漏れがないよう留意する」と指導担当者側に求めています[1]。指摘する側が使うリストが公開されているわけですから、事前の自己点検にそのまま使えます[5]。
訪問歯科でとくに見られるところ
保険診療確認事項リスト(歯科)の「5 在宅医療(1)歯科訪問診療料」には、指摘事項の型が具体的に並んでいます[5]。訪問を行っている医院が新規個別指導を受けるなら、ここは事前に潰しておく価値があります。
診療録に実施時刻を書いていない
算定要件を満たしていない例として指摘対象
実施時刻(開始時刻と終了時刻)、訪問先名、歯科訪問診療の際の患者の状態等(急変時の対応の要点を含む)の記載が挙げられています[5]。
準備や片付け、移動の時間を診療時間に入れていた
診療時間に含めてはならない
診療前の準備・診療後の片付け・患者の移動に要した時間、訪問歯科衛生指導料等の算定対象となった指導の時間を診療時間に含めている例が挙げられています[5]。
初回の訪問診療計画を残していない
第1回目の記載または計画書の写しの添付が必要
第1回目の歯科訪問診療の際に、患者の病状に基づいた訪問診療の計画の要点を診療録に記載するか、計画書の写しを添付します。2回目以降に変更した場合は変更の要点の記載も求められます[5]。
同一建物・同一日の区分を取り違えていた
区分の誤りとして指摘対象
同一建物で同一日に算定すべき区分を誤って算定している例が挙げられています[5]。区分の考え方は歯科訪問診療料の記事を参照してください。
まとめ
- 新規個別指導の定めは指導大綱ではなく、厚生労働省の医療指導監査業務等実施要領<指導編>にあります。本記事が確認できたのは平成30年9月版で、令和期の改訂有無は未確認です[1]。
- 実施時期は新規指定から概ね6か月経過後、1年以内。原則として毎年度4月から実施され、選定委員会に諮る必要がない=高点数かどうかとは無関係です[1]。
- 当日は指導月以前の連続した2か月分から診療所は10人分程度、原則1時間[1]。
- 返還の範囲は、実施要領の条文では「指導対象となったレセプトのうち適正を欠くもののみ」ですが、厚生労働省の新しい公表資料は新規個別指導についても「全患者等を自主点検」と記述しています[1][4]。狭い範囲で済む前提では備えないでください。
- 正当な理由なく拒否した場合は個別指導が行われます(通常の個別指導を拒否した場合の監査とは異なります)[1][2]。
- 令和6年度の歯科の新規個別指導は1,292件、前年度は1,517件でした[4]。
出典(一次情報)
- 医療指導監査業務等実施要領<指導編>(平成30年9月 厚生労働省保険局医療課医療指導監査室)5-(11)・5-(13) 各種指導に係る業務(新規個別指導)ほか(実施要領・2018年9月1日)
- 保険医療機関等及び保険医等の指導及び監査について(平成7年12月22日 保発第117号・最終改正 令和8年3月30日 保発第27号)別添1 指導大綱(通知・2026年3月30日)
- 同上 別添2 監査要綱(通知・2026年3月30日)
- 令和6年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況(厚生労働省保険局医療指導監査室・令和8年1月29日公表)(統計資料・2026年1月29日)
- 保険診療確認事項リスト(歯科)令和7年度改訂版 ver.2507(厚生労働省保険局医療課医療指導監査室)5 在宅医療(説明資料・2025年7月1日)
- 診療報酬の算定方法の一部を改正する件(令和8年厚生労働省告示第69号)別表第二 歯科診療報酬点数表 区分C000(告示・2026年3月5日)