歯科の個別指導では何が起きるのか——結果区分・自主返還の範囲・監査と取消までの分かれ道

2026年度改定対応一次情報で最終確認:2026年7月21日
執筆・監修金谷 拓株式会社レセアド CTO

まず「指導」と「監査」は別のもの

混同されがちですが、この2つは目的も根拠も違います。指導は保険診療の質的向上と適正化を目的とする教育的なもので、監査は不正または著しい不当が疑われる場合に事実関係を調べるものです。指導の根拠は指導大綱、監査の根拠は監査要綱で、いずれも同じ通知(平成7年12月22日 保発第117号)の別添として定められています[1][2]

そして指導から監査へは移行します。この分かれ道がどこにあるかを知っておくことが、いちばん実務的な備えになります。

指導の形態は、集団指導・集団的個別指導・個別指導の3つです[1]。個別指導はさらに、都道府県個別指導・共同指導・特定共同指導に分かれます[1]。どのような場合に個別指導の対象として選ばれるかは、個別指導の選定基準の記事で扱っています。

個別指導の結果は4つに分かれる

指導大綱は、個別指導後の措置を次の4区分と定めています[1]

個別指導後の措置(4区分)

指導大綱 第7の1(2)

区分定義(要旨)
概ね妥当診療内容および診療報酬の請求に関し、概ね妥当適切である場合
経過観察適正を欠く部分はあるが程度が軽微で、理解も十分得られ、改善が期待できる場合
再指導適正を欠く部分が認められ、再度指導しなければ改善状況が判断できない場合
要監査監査要綱に定める監査要件に該当すると判断した場合
経過観察の結果、改善が認められないときは再指導が行われます。また要監査と判断された場合は、後日速やかに監査が行われます。

なお、指導の途中で診療内容や請求に明らかに不正または著しい不当が疑われる場合は、指導を中止して直ちに監査を行うことができるとされています[1]。また、不正・不当が疑われ患者からの聴取が必要と考えられる場合には患者調査が行われ、その結果次第では再指導を経ずに監査へ進みます[1]

返還の範囲は「指導」か「監査」かで大きく変わる

ここが経営インパクトを決める分岐点です。

返還の対象期間

根拠となる文書が異なる点に注意

きっかけ自主点検・返還の対象根拠
個別指導指導月前1年分のレセプト厚生労働省の実施要領
新規個別指導指導対象となったレセプトのうち適正を欠くもの同上
集団的個別指導返還は求めない(教育的指導のため)同上
監査原則5年間監査要綱 第6の4(3)
指導に伴う返還の範囲は指導大綱ではなく実施要領に定められています(本記事が確認したのは平成30年9月版)。監査後の5年は監査要綱に明記されています。

個別指導で返還が生じる場合、対象となったレセプトのうち返還が生じるものと、返還事項に係る全患者の指導月前1年分のレセプトについて、医療機関が自主点検を行い、返還同意書等を提出する扱いになります。

監査に移行する4つの要件

監査要綱は、監査を行う場合を次のいずれかに該当するときと定めています[2]

  1. 診療内容に不正または著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき
  2. 診療報酬の請求に不正または著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき
  3. 度重なる個別指導によっても診療内容または診療報酬の請求に改善が見られないとき
  4. 正当な理由がなく個別指導を拒否したとき

3番目に注目してください。1件ずつは軽微な指摘でも、改善が見られないまま個別指導が繰り返されると、それ自体が監査の要件になります。「経過観察」「再指導」を軽く見ないほうがよいのはこのためです。

40%の加算金は、指導大綱にも監査要綱にも書かれていない

不正請求に関して語られる「返還額の40%」は、指導・監査の通知ではなく健康保険法が根拠です。同法第58条第3項は、保険医療機関等が偽りその他不正の行為によって療養の給付に関する費用の支払を受けたとき、保険者は支払った額を返還させるほか、その返還させる額に100分の40を乗じて得た額を支払わせることができると定めています[3]

取消になると5年間、再指定を受けられない

監査の結果、①故意に不正または不当な診療を行った場合、②故意に不正または不当な診療報酬の請求を行った場合、③重大な過失により不正または不当な診療をしばしば行った場合、④重大な過失により不正または不当な診療報酬の請求をしばしば行った場合には、保険医療機関の指定取消の対象になります[4]。取消を受けると、原則として5年間、再指定および再登録を受けることができません[4]

すでに廃止・登録抹消などで行政処分を行えない場合には「指定取消相当」として扱われ、公表と5年間の再指定不可は取消と同じです[4]

実際の事案はどう始まっているか

厚生労働省は、取消等に至った事案の概要を毎年公表しています。歯科の事案から、監査に至った端緒を見てみます(医療機関名は本記事では省略します)。

広島県・令和6年8月26日 指定取消相当

返還額 14,113千円

「通院していない月であるにもかかわらず医療費通知に計上されている」という情報提供が厚生局に寄せられ、同様の情報が複数寄せられたことが端緒でした。個別指導で診療録に一切の記載がない請求が確認され、明確な回答が得られず指導を中断、患者調査を経て計9回の監査が実施されています[4]

端緒=患者からの情報提供

岩手県・令和5年10月17日 指定取消

返還額 3,466千円

高額療養費の申請勧奨をした保険者から「対象月に受診していない」という情報提供があったのが端緒です。個別指導の中断、歯科技工所調査、患者調査を経て監査に至っています[4]

端緒=保険者からの情報提供

なお、公表資料では歯科技工所調査が行われた事案があるとおり、補綴物に関する請求は外部記録との突合が可能です。訪問歯科では義歯関連の算定が多くなるため、技工録との整合は日常的に意識しておく価値があります。

備えは3つに集約される

  1. 診療録の記載を要件どおりに埋める。歯科訪問診療料であれば実施時刻・訪問先名・患者の状態等、そして初回の訪問診療計画です。詳しくは歯科訪問診療料の記事を参照してください。
  2. 提出前にレセプト同士の整合を確認する。患者単位の点検では見えない不整合を潰しておきます。
  3. 「経過観察」「再指導」で止める。改善が見られないまま繰り返されると監査要件に該当します[2]。返還の範囲が1年分から5年分に変わる分岐点はここです。

まとめ

  • 個別指導の結果は4区分。再指導・経過観察の放置が、次の指導と監査を呼び込みます[1]
  • 自主返還は指導月前1年分、監査後は原則5年間[2]
  • 40%の加算金は健康保険法第58条第3項が根拠で、不正請求が対象・保険者の裁量です[3]
  • 取消は5年間の再指定不可。令和6年度は取消等23件のうち歯科が14件でした[4]

出典(一次情報)

  1. 保険医療機関等及び保険医等の指導及び監査について(平成7年12月22日 保発第117号・最終改正 令和8年3月30日 保発第27号)別添1 指導大綱通知2026年3月30日
  2. 同上 別添2 監査要綱通知2026年3月30日
  3. 健康保険法(大正11年法律第70号)第58条第3項(不正利得の徴収等)法律1922年4月22日
  4. 令和6年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況(厚生労働省保険局医療指導監査室・令和8年1月29日公表)統計資料2026年1月29日