訪問歯科の始め方——歯科訪問診療の届出から最初の1件を算定するまで【2026年度改定対応】
訪問歯科は「届出」から始まります
訪問歯科を始めるときに最初につまずきやすいのが、届出の順番です。留意事項通知は、次のように定めています[2]。
歯科訪問診療を実施する保険医療機関は、歯科訪問診療を開始する月の前月までに別に厚生労働大臣が定める基準(歯科訪問診療料の「注16」に規定する基準)を満たす旨を地方厚生(支)局長に届け出る。ただし、在宅療養支援歯科診療所1又は在宅療養支援歯科診療所2の届出を行っている場合は、この限りではない。
つまり、訪問を始める前月までに届出を済ませておく必要があります。すでに在宅療養支援歯科診療所1・2の届出を行っている医療機関は、この届出は不要です。
届出をしないとどうなるか
告示は、在宅療養支援歯科診療所1・2以外の診療所であって、別に厚生労働大臣が定める基準を満たさないものについて、歯科訪問診療1〜5ではなく初診時272点・再診時59点により算定すると定めています(注16)[1]。
さらに留意事項通知は、基準を満たさない場合だけでなく、基準を満たす旨を地方厚生(支)局長に届け出ていない場合も、この注16の点数によることを明示しています[2]。
注16に規定する基準の中身
この基準そのものは、多くの外来中心の歯科医院にとって難しいものではありません。施設基準の通知は、次のように定めています[3][4]。
直近1か月に歯科訪問診療及び外来で歯科診療を提供した患者のうち、歯科訪問診療を提供した患者数の割合が9割5分未満の保険医療機関であること。
届出には別添2の様式21の3の2を用い、届出前1か月間の訪問患者数・外来患者数とその割合を記載します[3]。外来を通常どおり行っている医院であれば、この割合が9割5分に達することはまずありません。
逆に言えば、訪問の割合が9割5分以上の診療所は、この基準には適合しません。訪問専門に近い体制で始める場合は、在宅療養支援歯科診療所1または2の届出が必要になります[3]。
誰に対して算定できるのか
歯科訪問診療料は、在宅等において療養を行っており、疾病・傷病のため通院による歯科治療が困難な患者を対象としており、通院が容易な者に対して安易に算定することはできません[2]。あわせて、次の2つが算定の前提です[2]。
- 患者の在宅等から屋外等への移動を伴わない屋内で診療を行った場合に限ること
- 急性症状の発症時等に即応できる環境の整備が必要なことから、切削器具を常時携行した場合に算定すること
「在宅等」には、介護老人保健施設や特別養護老人ホーム等のほか、歯科・小児歯科・矯正歯科・歯科口腔外科を標榜する保険医療機関以外の保険医療機関も含まれ、そこに入院する患者についても算定できます[2]。
距離の制限:16kmの原則と例外
訪問できる範囲には距離の目安があります。留意事項通知は次のように定めています[2]。
- 保険医療機関の所在地と患家の所在地との距離が16キロメートルを超える歯科訪問診療は、当該保険医療機関からの歯科訪問診療を必要とする絶対的な理由がある場合に認められ、この場合の算定は16キロメートル以内の場合と同様に取り扱います。
- 絶対的に必要であるという根拠がなく、特に患家の希望により16キロメートルを超える歯科訪問診療をした場合は、保険診療としては算定できず、患者負担となります。
- ここでいう「16キロメートルを超えた場合」とは、当該保険医療機関を中心とする半径16キロメートルの圏域の外側に患家が所在する場合をいいます。
「絶対的な理由」がどの程度のものかは、通知の別の項が参考になります。保険医療機関の所在地と患家の所在地との距離が16キロメートル以上の地域に居住する歯科医師に対して主治医が歯科訪問診療による対診を求めることができるのは、患家付近に他の歯科医師がいない、いても専門外である、旅行中で不在である等やむを得ない絶対的理由のある場合に限り認められる、とされています[2]。
なお、告示は、距離が16キロメートルを超えた場合または海路による歯科訪問診療を行った場合で特殊の事情があったときの歯科訪問診療料は、別に厚生労働大臣が定めるところによって算定するとしています(注12)[1]。また、歯科訪問診療に要した交通費は患家の負担で、実費とされています(注13)[1][2]。
最初に決まる点数:人数と20分
歯科訪問診療料は「1日につき」の点数で、同一の建物に居住する患者のうち、自院が同一日に歯科訪問診療を行う人数によって1〜5に分かれます[1]。歯科訪問診療2〜5はさらに、診療時間が20分未満かどうかで点数が変わります(注6)[1]。
歯科訪問診療料(1日につき)
同一の建物に居住する患者数と、患者1人につき診療に要した時間で決まる
| 同一建物で同日に診療する人数 | 20分以上 | 20分未満 |
|---|---|---|
| 1人のみ(歯科訪問診療1) | 1,100点 | 1,100点 |
| 2人以上3人以下(歯科訪問診療2) | 410点 | 287点 |
| 4人以上9人以下(歯科訪問診療3) | 310点 | 217点 |
| 10人以上19人以下(歯科訪問診療4) | 160点 | 96点 |
| 20人以上(歯科訪問診療5) | 95点 | 57点 |
数え方で間違えやすいのは、この人数が建物の総居住者数ではないという点です。その日・その建物で、自院が歯科訪問診療を行う患者の数で数えます[2]。
また、同居する同一世帯の複数の患者を診療した場合など、同一の患家において2人以上3人以下の患者を診療した場合は、1人は歯科訪問診療1、それ以外の患者は歯科訪問診療2で算定します[2]。
区分の選び方や2026年度改定の論点は、歯科訪問診療料の算定要件と返戻を防ぐカルテ記載で詳しく整理しています。
届出で点数が変わるもの
訪問を続けていくと、次に効いてくるのが在宅療養支援歯科診療所(在支診)1・2の届出です。同じ診療をしても、届出の区分によって点数が変わります。
在宅療養支援歯科診療所の届出で変わる主な点数
令和8年厚生労働省告示第69号 C000注14・注15、C001-3
| 項目 | 在支診1 | 在支診2 | いずれの届出もない診療所 |
|---|---|---|---|
| 歯科疾患在宅療養管理料(月1回) | 340点 | 230点 | 200点 |
| 在宅療養支援歯科診療所加算(歯科訪問診療1・注15) | +100点 | +50点 | — |
| 歯科訪問診療補助加算・同一建物居住者以外(注14) | 115点 | 115点 | 90点 |
| 歯科訪問診療補助加算・同一建物居住者(注14) | 50点 | 50点 | 30点 |
歯科疾患在宅療養管理料の算定要件や加算は、歯科疾患在宅療養管理料(歯在管)の算定要件と点数で扱っています。
歯科訪問診療4・5には50%減算があります(注7)
告示の注7は、歯科訪問診療4・5について、在宅療養支援歯科診療所1・2または在宅療養支援歯科病院に係る施設基準に適合しているものとして届け出た保険医療機関以外であり、かつ別に厚生労働大臣が定める施設基準を満たす保険医療機関以外の保険医療機関においては、所定点数および注6に定める所定点数の100分の50に相当する点数により算定すると定めています[1]。
つまり、在支診等の届出がなくても、注7に規定する施設基準を満たしていれば減算されません。この基準は次のとおりで、地方厚生(支)局長に対して届出を行う必要はないとされています[3]。
歯科訪問診療4・5は、同一建物で同じ日に10人以上を診療する場合の区分です。始めたばかりの医院がこの規模に達するケースはあまり多くありませんが、施設訪問を主軸に据える計画であれば、最初から意識しておく論点です。
在宅療養支援歯科診療所2の施設基準
在支診は、実績が先で届出が後という構造になっています。届出には別添2の様式18を用います[3]。まず目指すことになる在支診2の施設基準は、次のいずれにも該当することです[3][4]。
- ア 次のいずれかに該当すること — 過去1年間に歯科訪問診療1、歯科訪問診療2または歯科訪問診療3を合計4回以上算定していること/研修歯科医を受け入れており、当該研修歯科医に対して歯科訪問診療に係る教育を実施している臨床研修施設であること
- イ 在支診1の施設基準のイからオまで、およびクのいずれにも該当すること
- ウ 過去1年間の、在宅医療を担う他の保険医療機関・保険薬局・訪問看護ステーション・地域包括支援センター・居宅介護支援事業所または介護保険施設等からの依頼による歯科訪問診療料の算定回数の実績が3回以上であること
イが指している在支診1の施設基準のイからオまでは、次の内容です[3]。
- イ 高齢者の心身の特性(認知症に関する内容を含む)、口腔機能の管理、緊急時対応等に係る適切な研修を修了した常勤の歯科医師が1名以上配置されていること
- ウ 歯科衛生士が配置されていること
- エ 歯科訪問診療を行う患者に対し、迅速に歯科訪問診療が可能な保険医をあらかじめ指定するとともに、担当医名・診療可能日・緊急時の注意事項等について、事前に患者または家族に説明の上、文書により提供していること
- オ 歯科訪問診療に係る後方支援の機能を有する別の保険医療機関との連携体制が確保されていること
なお、クは、直近1か月に歯科訪問診療および外来で歯科診療を行った患者のうち、歯科訪問診療を行った患者数の割合が9割5分以上の診療所に適用される追加要件です(他院からの初診患者の診療情報提供、歯科訪問診療1の割合、在宅歯科医療に係る3年以上の経験を有する歯科医師の勤務、歯科用ポータブルユニット等の保有、抜髄・感染根管処置や抜歯手術・有床義歯に係る診療実績など)[3]。訪問割合が9割5分未満であれば、クの判定は生じません。
診療録に必ず書くこと
訪問歯科は、診療録の記載そのものが算定要件です。初回に定めるものと、毎回書くものの2つがあります。
歯科訪問診療を行った場合は、診療録に次の事項を記載します[2]。
- イ 実施時刻(開始時刻と終了時刻)
- ロ 訪問先名(記載例:自宅、○○マンション、介護老人保健施設××苑)
- ハ 歯科訪問診療の際の患者の状態等(急変時の対応の要点を含む)
このうちロは、歯科訪問診療を開始した日に限り記載することとされていますが、変更が生じた場合はその都度記載します[2]。また、患者の容体が急変しやむを得ず治療を中止した場合は、急変時の対応の要点をハに記載します[2]。
最初のレセプトで気をつけること
歯科初診料の施設基準を届け出ていない
歯科訪問診療料からも10点減算
初診料の注1・注2に規定する施設基準の届出がない場合、歯科訪問診療1〜5および注16・注20の所定点数から10点を減算します[1]。
施設の患者には、日時と歯科医師名の文書提供が要ります
歯科訪問診療2〜5、注16または注20の歯科訪問診療料を算定した場合であって、在宅療養患者以外の患者に対して歯科訪問診療を実施したときは、実施した日の属する月に、歯科訪問診療を行った日時および訪問診療を行った歯科医師の氏名が記載された文書を、患者もしくはその家族または介護施設職員等の関係者のいずれかに提供し、提供文書の写しを保険医療機関に保管します[2]。
同一施設で同月に複数回算定し、患者・家族以外の介護施設職員等に文書を提供する場合は、提供先を明確にしたうえで、施設を単位として一覧表で作成しても差し支えないとされています[2]。
院内掲示も忘れずに
歯科訪問診療料を算定する保険医療機関は、歯科訪問診療を行っている保険医療機関である旨を院内掲示により患者に情報提供するよう努めることとされています[2]。
まとめ
- 訪問を始める前月までに、歯科訪問診療料の「注16に規定する基準」を届け出ます(在支診1・2の届出がある場合は不要)[2]。
- 届出がなければ、歯科訪問診療1〜5ではなく初診時272点・再診時59点になります[1][2]。
- 対象は通院が困難な患者で、屋内での診療、切削器具の常時携行が前提です。定期的に巡回するだけの形は算定できません[2]。
- 16キロメートル超は絶対的な理由がある場合に限られ、患家の希望だけでは保険で算定できません[2]。
- 点数は同一建物で同日に自院が診る人数と20分で決まり、届出(在支診1・2)で歯科疾患在宅療養管理料などが変わります[1]。
- 初回の訪問診療計画と、実施時刻・訪問先名・患者の状態等の診療録記載は算定要件です[2]。
訪問診療とあわせて歯科衛生士が実地指導を行う場合は、訪問歯科衛生指導料の算定要件と点数もあわせてご確認ください。