歯科の個別指導はどう選ばれるか——平均点数1.2倍・上位8%の仕組みと、訪問歯科が引っかかりやすい理由

2026年度改定対応一次情報で最終確認:2026年7月21日
執筆・監修金谷 拓株式会社レセアド CTO

個別指導は「悪いことをしたから」来るとは限らない

保険診療の指導には、集団指導・集団的個別指導・個別指導の3つの形態があります[1]。このうち集団的個別指導と、それに続く個別指導の入口は、レセプト1件当たりの平均点数という機械的な数字です[2]

つまり、算定が適正であっても、平均点数が高ければ選定されます。訪問歯科に力を入れている医院がまず知っておくべきなのは、この「入口が数字で決まる」という事実です。

選定の入口:平均点数1.2倍・上位およそ8%

集団的個別指導の対象は、レセプト1件当たりの平均点数が都道府県の平均点数の一定割合を超えるものとされ、歯科診療所・歯科病院の場合は1.2倍です(医科病院は1.1倍)[2]

さらにそのうえで、前年度および前々年度に集団的個別指導または個別指導を受けた医療機関を除き、類型区分ごとの医療機関総数の**上位およそ8%**の範囲が対象になります[2]

集団的個別指導の選定基準

地方厚生(支)局「集団的個別指導及び個別指導の選定の概要について」より

区分平均点数の基準
医科病院都道府県平均の1.1倍超
医科診療所都道府県平均の1.2倍超
歯科病院・歯科診療所都道府県平均の1.2倍超
薬局都道府県平均の1.2倍超
いずれも「かつ、類型区分ごとの総数の上位より概ね8%の範囲」という条件が重なります。前年度・前々年度に指導を受けた医療機関は除かれます。

平均点数の算出には、社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険団体連合会が管理する医療機関ごとのデータが使われ、社会保険・国民健康保険の一般分および後期高齢者分のレセプトが対象になります。計算式は、類型区分ごとに「レセプトの総点数 ÷ レセプトの総件数」です[2]

集団的個別指導のあと:翌年度もなお高ければ個別指導へ

集団的個別指導を受けて終わり、ではありません。翌年度の実績でもなお「高点数保険医療機関等」に該当する場合などに、個別面談方式の個別指導の対象として選定されます[2]

ここでいう高点数保険医療機関等とは、翌年度の実績において、集団的個別指導を受けたグループ内の医療機関の数の上位よりおおむね半数以上である医療機関を指します[2]

高点数から個別指導までの流れ

  1. 1

    1年目の実績

    平均点数が高い上位約8%に入る

    レセプト1件当たりの平均点数が都道府県平均の1.2倍を超え、かつ歯科の上位およそ8%に入ると、集団的個別指導の対象になります(前年度・前々年度に指導を受けた医療機関は除かれます)。

    集団的個別指導
  2. 2

    2年目の実績

    翌年度もなおグループ内の上位半数

    集団的個別指導を受けたグループの中で、翌年度の実績でも上位おおむね半数以上にとどまると「高点数保険医療機関等」に該当します。

    高点数に該当
  3. 3

    その後

    個別指導の対象になる

    高点数に該当した医療機関などが、個別面談方式の個別指導の対象として選定されます。

    個別指導

なお個別指導の実施件数は、医科・歯科・薬局ごとの類型区分ごとに、全保険医療機関等の4%程度を実施することとされています[2]

自分の県の平均点数は公表されている

選定に使われる都道府県ごとの平均点数は、各地方厚生(支)局がホームページで毎年公表しています。令和8年度の歯科の値を抜き出すと、次のとおりです。

令和8年度 保険医療機関の診療科別平均点数(歯科)

各地方厚生(支)局が公表している一覧表より抜粋

都道府県歯科の平均点数1.2倍(参考値)
宮城県1,188点約1,426点
東京都1,240点約1,488点
愛知県1,260点約1,512点
広島県1,358点約1,630点
福岡県1,366点約1,639点
岡山県1,401点約1,682点
秋田県1,416点約1,699点
大阪府1,436点約1,723点
平均点数は厚生局の公表値。1.2倍の欄は本記事が計算した参考値で、厚生局は基準点数を公表していません。全都道府県の値は各局の一覧表で確認できます。

同じ歯科でも、宮城県の1,188点から大阪府の1,436点まで250点近い開きがあります。全国一律の基準ではなく、自院が所在する都道府県の平均点数と比べられる点に注意してください[3][4]

なぜ訪問歯科は平均点数が上がるのか

理由は単純で、1回の訪問診療につく基本部分が、外来の再診と桁違いだからです。

基本部分の比較(令和8年6月1日施行の点数)

令和8年厚生労働省告示第69号 別表第二 歯科診療報酬点数表

算定するもの点数
歯科再診料(外来)59点
歯科初診料(外来)272点
歯科訪問診療1(同一建物1人)1,100点
歯科訪問診療2(同一建物2〜3人・20分以上)410点
歯科訪問診療3(同一建物4〜9人・20分以上)310点
歯科訪問診療料の区分・時間要件の詳細は「歯科訪問診療料の算定要件」の記事を参照してください。

さらに訪問では、歯科疾患在宅療養管理料(月1回)や訪問歯科衛生指導料(月4回まで)といった在宅系の管理料・指導料が積み上がります。レセプトは患者ごと・月ごとに1件と数えられるため、1件当たりの点数は外来患者のレセプトより大きくなるのが自然です。

モデルケースで見る(試算)

前提を置いて計算すると、次のようになります。あくまで基本部分だけを積んだモデルで、実際には処置・投薬・検査等が加わります。

1か月・患者1人あたりの基本部分(試算)

処置・投薬等を含まない。前提は下記のとおり

患者像内訳1か月の合計
外来・再診2回59点 × 2回118点
居宅訪問・月2回(同一建物1人)1,100点 × 2回 + 歯在管340点 + 訪問歯科衛生指導料380点 × 2回3,300点
施設訪問・月2回(同一建物4〜9人)310点 × 2回 + 歯在管340点 + 訪問歯科衛生指導料330点 × 2回1,620点
前提:在宅療養支援歯科診療所1の届出あり(歯科疾患在宅療養管理料340点)、訪問歯科衛生指導は20分以上・単一建物診療患者数に応じた点数(1人380点/2〜9人330点)、いずれも令和8年6月1日施行の点数。加算は含みません。

外来の再診患者を多く抱える医院の平均点数と、訪問患者を多く抱える医院の平均点数では、分子になる点数の水準がそもそも違います。訪問の比率が上がるほど、医院全体の1件当たり平均点数は都道府県平均から離れていきます。これは算定の巧拙ではなく、点数表の構造から来るものです。

この差は、国の審議会でも数字で示されています。中央社会保険医療協議会に提出された資料では、歯周治療を実施した場合のレセプト1日当たり平均点数を比較し、外来診療が800点、歯科訪問診療(同一建物1人)が1,658点とされています[9]

高点数以外の選定理由もある

個別指導の対象になるのは高点数だけではありません。指導大綱は、都道府県個別指導について「次に掲げるものについて、原則として全件都道府県個別指導を実施する」として、7つの選定基準を挙げています[1]

  1. 支払基金等、保険者、被保険者等から診療内容または診療報酬の請求に関する情報の提供があり、必要と認められた医療機関
  2. 個別指導の結果が「再指導」だった医療機関、または「経過観察」で改善が認められない医療機関
  3. 監査の結果、戒告または注意を受けた医療機関
  4. 集団的個別指導の結果、対象となった大部分のレセプトで適正を欠くものが認められた医療機関
  5. 集団的個別指導を受けたのち、翌年度の実績でもなお高点数に該当する医療機関
  6. 正当な理由がなく集団的個別指導を拒否した医療機関
  7. その他特に必要と認められる医療機関

新規開設・訪問の立ち上げ直後は別枠

新たに指定を受けた保険医療機関には、高点数とは無関係に新規個別指導が行われます。厚生労働省の実施要領では、新規指定からおおむね6か月を経過した医療機関に対し、6か月経過後1年以内に実施するとされています(平成30年9月版時点)。指導は原則として指導月以前の連続した2か月分のレセプトにもとづき、診療所では10人分程度を対象に行われます。

令和6年度の歯科の新規個別指導は1,292件でした[6]。分院の開設や訪問部門の立ち上げで新規指定を受ける場合は、この経路を最初から想定しておく必要があります。

歯科は毎年どれくらい指導を受けているのか

これは推測ではなく、厚生労働省が毎年公表しています。令和6年度に歯科が受けた指導の件数は次のとおりです[6]

令和6年度 歯科の指導・監査の実施件数

厚生労働省「令和6年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況」より(保険医療機関等の件数)

区分歯科前年度(令和5年度)
集団的個別指導5,029件3,775件
個別指導791件512件
新規個別指導1,292件1,517件
監査14件22件
出所は同資料の年度別推移表。件数は保険医療機関等(医院)の数で、保険医(歯科医師)の人数とは別に集計されています。

集団的個別指導は年間5,000件規模で、歯科診療所にとって決して珍しい出来事ではありません。また、個別指導は前年度の512件から791件へと増えています[6]

返還金額については、同資料の令和6年度の総額は48億5,333万円(指導による返還17億2,536万円、適時調査による返還22億9,921万円、監査による返還8億2,876万円)と公表されています[6]。ただしこの返還金額には医科・歯科・薬局の内訳がなく、歯科分だけを取り出すことはできません。また同資料は、返還金額を指導の実施年度ではなく返還額が確定した年度で計上していると注記しています[6]

対策は「点数を下げること」ではない

ここまでの整理からわかるとおり、平均点数が高いこと自体は不正でも過剰請求でもありません。訪問歯科の点数構成が、そういう水準になっているだけです。必要な診療を控えたり、算定できるものを算定しないことは、対策ではありません。

実務的な対策は、次の3つに集約されます。

  1. 算定要件を満たしていることを、記録で示せる状態にする。歯科訪問診療料であれば、実施時刻・訪問先名・患者の状態等の診療録記載が要件です[7]
  2. レセプト同士の整合を、提出前に確認する。同じ日・同じ建物での人数区分、患者間で診療時間が重なっていないか、移動時間として無理がないか。これらは1枚のレセプトを見ているだけでは気づけません。
  3. 算定の根拠を、後から説明できるようにしておく。指導では「なぜこの算定なのか」を尋ねられます。答えられる状態にしておくことが、最大の準備です。

まとめ

  • 集団的個別指導の入口は、レセプト1件当たり平均点数が都道府県平均の1.2倍超、かつ上位およそ8%[2]
  • 歯科は1つの類型区分。訪問中心の医院も外来中心の医院と同じ母集団で比較されます[2]
  • 翌年度もグループ内で上位おおむね半数以上なら、個別指導の対象に[2]
  • 訪問歯科の平均点数が高くなるのは点数表の構造によるもの。下げるのではなく、説明できるようにするのが対策です。

出典(一次情報)

  1. 保険医療機関等及び保険医等の指導及び監査について(平成7年12月22日 保発第117号・最終改正 令和8年3月30日 保発第27号)別添1 指導大綱通知2026年3月30日
  2. 集団的個別指導及び個別指導の選定の概要について(近畿厚生局)説明資料2024年3月26日
  3. 令和8年度 保険医療機関等の診療科別平均点数一覧表(関東信越厚生局)公表資料2026年4月1日
  4. 令和8年度 保険医療機関等の診療科別平均点数一覧表(近畿厚生局)公表資料2026年4月1日
  5. 2024年度指導計画/協会の開示請求で明らかに(東京歯科保険医協会)開示請求資料2024年7月18日
  6. 令和6年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況(厚生労働省保険局医療指導監査室・令和8年1月29日公表)統計資料2026年1月29日
  7. 診療報酬の算定方法の一部を改正する件(令和8年厚生労働省告示第69号)別表第二 歯科診療報酬点数表告示2026年3月5日
  8. 令和7年社会医療診療行為別統計の概況(厚生労働省・8月審査分)第15表統計資料2026年6月26日
  9. 中央社会保険医療協議会 総会 総-3「在宅(その4)」(令和7年11月14日)外来診療と歯科訪問診療のレセプト1日あたり平均点数等の比較審議資料2025年11月14日